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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)3701号 判決 1967年4月03日

原告 合同印刷株式会社

右訴訟代理人弁護士 梅沢秀次

被告 小河内観光開発株式会社

右訴訟代理人弁護士 朝山豊三

主文

被告は原告に対し、一八〇万円およびこれに対する昭和三九年一〇月一三日から完済までの年六分の割合による金員を支払わなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

一、請求原因事実は、本件手形が正当に振出されたかどうかを除き、すべて当事者間に争いがない。

二、そこで、本件手形が正当に振出されたかどうかについて検討する。

(一)  先ず、本件手形振出の当時、被告の代表取締役であった長棟至元が原告の代表取締役をも兼ねていたことは当事者間に争いがなく、したがって本件手形の振出については商法第二六五条所定の被告の取締役会の承認を必要とすることは多言を要しない。〈省略〉。

次の事実を認めることができる。

すなわち、被告は昭和三五年三月頃、主たる事業であるロープウエイの建設途中であったが、その認許がおりるまでには将来なお相当の期間を要する見込であり、その間の事業資金として多額の資金を調達する必要に迫られた。しかして、被告はその間のつなぎ資金を得るため、被告の別途事業であるヘルスセンターの経営を企画してその手続を進めていたが、これも急場の用には役立たないし、増資や金融機関からの借入について極力努力するとしても、なお事業資金に多額の不足が生ずる見込であった。

そこで被告は事業資金の不足を原告からの借入によって補うことにし、同年三月一〇日その協議のため被告の取役締六名のうち代表取締役長棟至元、取締役金沢市太郎、百川昇および橋爪弘の四名が会合した。この会合には、他の二名の取締役岡部為三および白井卯蔵に対して取締役会招集の通知がなく(岡部に対する招集通知がなかったことは原告も認めている)、同人らが出席しなかったが、この会合で前記出席の四取締役の協議により、事業資金の不足分を補うために原告から三、〇〇〇万円の資金を借入れること、その借入れ申込、時期、支払方法およびそのための手形振出等に関し代表取締役長棟至元に一任することという内容の決議をした。

被告代表者長棟至元は、この決議に基き、被告の必要の都度原告から資金を借入れ、その都度担保のため原告に約束手形を振出していた。しかして、被告がこのようにして何回かにわたり原告から借用した金額は二、〇〇〇万円ほどに達したが、担保のために振出された手形はほぼ一カ月ないし一カ月半位の間隔で書替えられてきた。本件手形はいずれも原告から被告に対する右貸金の一部の担保として振出された手形の書替え手形として振出されたものである。

〈省略〉。

右認定の事実によれば、本件手形の振出およびその原因関係である金銭貸借について、被告の取締役六名のうち四名のものの会合による承認の決議があったものである。

そこで、この承認決議の効力について更に検討する。

右会合においては白井卯蔵および岡部為三の二取締役に対する招集通知がなく、同人らが出席しなかったから、この取締役会はその手続に瑕疵があったことは否定できない。

しかし、当時被告においては、前記長棟至元が、資金関係の事情により、前代表者であった岡部為三と交替して被告の新代表取締役に就任してから間もないという事情があり右岡部はいわば名目的に取締役に名を連ねているに過ぎず被告の業務執行はほとんど長棟至元の側近と目される前記出席の四取締役によって取決められていた実情であった。

〈省略〉。

また、被告の主たる事業であるロープウエイの建設にいたるまで、原告からの借入により事業資金を調達することは当時としてはやむを得ない事情にあった。このことは前記認定の金銭貸借のいきさつから充分推察することができる。したがって、これらの事情のもとでは右不出席の二取締役に適法な招集通知がなされ、同人らが前記会合に出席したと仮定しても、前記承認の意思決定に影響がなかったものと認められる。

そうだとすると、右招集手続の瑕疵は前記承認決議に影響を及ぼさないことが明らかであるというべきであるから、前記承認決議は有効になされたものと考えられる。

(二)  次に、被告は、本件手形が権限の濫用により振出されたと主張している

〈省略〉、確かに、本件手形が振出された頃、被告主張のような資金関係の事情から、前記長棟至元が近々被告の代表者を辞任し、交替に現代表者である田島将光が多額の自己資金を投下して新代表者に就任する運びとなることが確定的となっていたことが認められ、代表者の交替を余儀なくされた右の事情から推して当時長棟至元の業務執行について内部的に或る程度の事実上の制限があったであろうことは充分推察することができる。

しかし、前記認定のところからみると、被告はその事業資金として原告から金銭を借用し、その担保手形を順次書替えるのを恒例としており、本件手形は恒例にしたがって書替えたものと認められるからこのような手形の振出は、当時長棟至元の置かれた前記の立場においてもその専決により行うことができたものと解され、右長棟至元の被告会社業務執行について付された内部的制限はこれに及ぶことはなく、これが権限の濫用に当るものということはできない。

被告のこの点の主張は採用できない

以上のとおりで本件手形は正当に振出されたものである。

三、次に被告の原因関係に基く主張について考察するのに、本件手形の原因関係として手形金額に見合う金銭貸借が行われこれについても被告の取締役会の承認があったと同視しえられることは前記二で認定したところから明らかであるから、被告のこの点の主張も採用できない〈以下省略〉。

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